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渋谷簡易裁判所 昭和34年(ハ)1号 判決 1963年6月24日

原告 宮城正敏

外二名

右三名訴訟代理人弁護士 笹原桂輔

成富安信

被告 佐川直躬

右訴訟代理人弁護士 増岡章太郎

中村護

主文

原告らが別紙目録及び同図面(一)記載の通路部分につき袋地通行権を有することを確認する。

被告は右通路部分につき障碍物を設置したり、その他原告らの通行を妨害してはならない。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

原告宮城両名は東京都渋谷区千駄ヶ谷一丁目二番の六宅地四三坪七合六勺を共有し、同有森は同番の七宅地一一五坪一合五勺を訴外大谷万之助から賃借し、共に同地上に居宅を所有していること、被告は昭和三三年一二月一二日同番の三宅地八二坪八合三勺を同地上建物と共に訴外長谷川杉造から買受けたことは当事者間に争がない。

成立に争のない甲第三、四号証≪中略≫を綜合すると、訴外大久保徳明は訴外株式会社三菱銀行所有の同所四番の一及び前記二番の六、同番の七(元一筆の土地であつた)を所有し、同地上に住居並に貸家を所有していたが、大正六年四月二〇日訴外大久保正路が相続により右土地及び建物を取得し、昭和二四年八月、同二六年五月の両度に右土地を分筆し、その結果、前記の如く四番の一、二番の六、同番の七となつたこと、訴外大久保は明治四〇年以来本件通路(別紙図面表示の通路、右通路は被告所有の二番の三及び訴外石井常所有の同番の四の各一部で構成し、その幅員は元九尺であつたが中途六尺になつた)を通行して来たが昭和二〇年五月同地上建物は焼失し、右焼失後は原告らが前記の如く居宅を所有し、右通路を通行して来たこと、ところが、被告は前記土地買受の前日、すなわち昭和三三年一二月一一日前主長谷川杉造とでその所有の二番の三と訴外石井常所有の二番の四との境界を明確にするとの理由で右通路の略々中央辺に木柵を設置し、有刺鉄線を張り原告らの通行を妨害したことが認められ、右認定に反する証拠は採用しない。

原告らは、右通路部分につき時効により通行地役権を取得した旨主張する。

なる程、訴外大久保以来五〇有余年にわたり本件通路が通行に供されて来たことは前記認定のとおりである。しかし、本件全証拠によるも、原告らが時効により通行地役権を取得したことは認め難く、かりに、時効により取得したとしても、被告が二番の三を取得する以前においてすでに時効が完成したものと解し得べく、したがつて、原告らは時効完成後に本件通路を取得した被告に対してはその旨の登記なくしては対抗し得ないものと謂わねばならない。

次に、原告らは民法第二一〇条第一、二項による囲繞地通行権を主張する。

原告らの共有又は賃借地は袋地であることは当事者間に争がなく、被告は、その所有にかかる二番の三は囲繞地でない旨主張する。しかし、前記甲第二一号証並に検証の結果を綜合すると右二番の三と原告らの共有又は賃借地とは袋地、囲繞地の干渉にあることが認められる。

又、被告は、二番の六、同番の七は四番の一の譲渡で袋地になつたのだから、原告らは民法第二一三条第二項により四番の一に対してのみ通行権を主張し得べきである旨主張する。

しかし、本件通路は右四番の一及び二番の六及び同番の七が一筆の土地であつた当時すでに存在し、四番の一が譲渡されたけれども右二番の六及び同番の七は事実上袋地にならなかつたものである。のみならず、訴外銀行所有にかかる四番の一に対する囲繞地通行権を主張し得る者は直接の譲渡人である訴外大久保のみが有するものと解するから原告らは訴外大久保の有する右権利を承継しないものというべく、したがつて、被告の民法第二一三条第二項による主張は採用するを得ない。

ところで、本件通路は前記の認定の如く明治四〇年以来五〇有余年にわたり通行されて来たものであり、しかも、前記検証の結果によると、民法第二一一条の趣旨にも副うものということができるから、原告宮城両名は二番の六の袋地の所有者として、又原告有森は同番の七の権原にもとずく土地の利用者として民法第二一〇条第一項にもとずき本件通路に対し囲繞地通行権を有するものということができる。

よつて、原告らの被告に対する囲繞地通行権の確認並に妨害の排除を求める本訴請求を正当として認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 原田定吉)

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